2024年10月にテスラはついにロボタクシーについて発表を行いました。
発表会の模様は、YouTubeでも見れますが、詳細というべき内容はほとんど発表されませんでした。
しかし、大統領選挙において、トランプ氏を応援し、当選に導いた要因の一つとして、イーロン・マスク氏の支援があったとされる中、現状テスラのロボタクシーが全米、また世界中で走るためのいくつもの課題が乗り越えられるのかが注目されています。
では、ロボタクシーが公道を走るには、どんな課題があるのでしょうか?また、イーロン・マスク氏は、ロボタクシーをつかった「サイバーキャブ」事業で、どうやって儲けようと考えているのでしょうか?
この記事ではその辺を掘り下げていきたいと思います。
この記事でわかること
- ロボタクシー(サイバーキャブ)とはどういうものなのか?
- 他の自動運転カーを使ったタクシーとの違いはなにか?
- 現在ロボタクシーが抱える課題とは何か?
- イーロン・マスク氏はどうやってロボタクシーで儲けようとしているのか?
ロボタクシー(サイバーキャブ)とは何か?
テスラのロボタクシーは、詳しくは後述しますが、これまでテスラが培ってきたFSD(Full Self Driving)の技術とは全く違う技術を使った、完全自動運転カーです。
FSDというと、フルセルフドライビングなのだから、完全自動運転だろう!と言いたい気持ちはわかりますが、実際は、自動運転のレベルで言うと「レベル2(部分的に運転が自動化された車両)」なので、Semi Self Driving(SSD)といえます。
ロボタクシーには運転手がいない前提なので、「レベル4(特定の条件下で、ドライバーがいなくても自動運転システムが自動運転を行う)」以上ということになります。
このレベル4を許可された実用車は現在、アルファベット傘下のWaymoがこれに該当しています。
ところで、発表では、2026年に発売開始を予定していて、価格は3万ドル(450万円)程度で買えるということですが、これは安いですよね。製造はできるかもしれないのですが、現状レベル4の許可申請すらできていない状況なので、本当に2026年に買えるかどうかは疑問が残ります。
ところで、We Robotイベントで発表された姿としては、2ドアで2人乗り、車内にステアリングやアクセルなど運転装置がなく、充電も非接触充電で行われるということです。
また、「サイバーバン」と名付けられた20人乗りのロボタクシーも公開されています。
一方で、今回のイベントで期待されていたのは、ロボタクシーがいかに安全で高性能か、といった技術的な詳細や、サイバーキャブサービスの内容などだったのですが、そういった話には触れられず、コンセプトカーが会場内を動くというデモンストレーションのみとなったことが残念でした。
他の自動運転カーを使ったタクシーとの違いはなにか?
自動運転カーで、すでにサービスを開始しているのが、アルファベット傘下のWaymoです。
古くはGoogleカーとも呼ばれ、Google本社のあるマウンテンビューに訪問すると、よく走っていた車が原型ではあるのですが、現在ではロサンゼルスとサンフランシスコの一部の地域で、レベル4の商用サービスを開始しています。
また、Waymoのサービスは、Uberと提携していて、Waymoの専用アプリからでも、Uberのアプリからでも配車することが可能となっています。
LiDARとTesla Vision、周囲を認識する技術の違い
Waymoなど他の自動運転カーは、カメラやレーダー、LiDARと呼ばれるセンサーを使って、周囲の状況を把握、自動走行するのですが、テスラの車はTesla Visionと呼ばれる、カメラだけで周囲の状況を掴むシステムで走行しています。
一般的にカメラでは認識精度が低いといわれていたのですが、テスラの発表によると、LiDARを使う場合と同等またはそれ以上と発表しています。
高精度な地図情報が、自動運転カーにとって重要
Waymoなどの自動運転車にはLiDARが必要なのですが、テスラのそれにはLiDARがありません。
マップを生成は、走りながらやっているということです。
通常、レベル4の自動運転を実現しようとすると、その地域の高精細な地図が必要とされています。
なぜなら、急な豪雨や霧、雪などの気象条件の変更や、立体交差があるような道路で自分がどの階層にいるのかがわからないと、正確にナビゲーションができないこと、また、道路の合流など、道路の状況を知っていれば周囲の車の動きも予測できるのですが、これがわからないと、毎回判断が必要となり安全性が減ります。
こういった理由から、高精細な地図が必要とされているわけです。
これに関しては、ご存知の通り、アップルやGoogleは、巨額の資金を使って地図情報を作ったわけですが、テスラにはこれがありません。
そこで、イーロン・マスク氏は、テスラの車が走ることで、地図データの元となるデータを収集し、それをクラウド上に集めることで、広範囲な地図データを作ろうと考えました。
これは逆にいうと、テスラの車がたくさん走っている地域でないと、地図情報すらない状態になるということでもあります。
日本のテスラオーナーからは、「テスラのナビは使えない」という声も多く、アップデートはされているものの、ルート案内がイマイチということです。これは、おそらくテスラがそれほど走っていないからではないかと思います。
こういった事情もあって、先行するWaymoも限定された地域で、高度なマップ情報を作ってからレベル4の自動運転を実現しているといえるのです。
たとえロボタクシーがリリースされたとしても、日本国内でそれに乗るにはもう少し事前に日本の交通事情や、ルート検索のアルゴリズムを研究してもらわないとイライラしそうですね。
車メーカーとソフトウエア企業の争い
Waymoは母体がアルファベットであることからも分かるように、ソフトウエアがよくできていると言われています。
一方、「自社では車の生産ができない」ということがあり、さまざまな自動車メーカーと提携して自動運転カーを開発しています。
それに対して、テスラはすでにEVの世界ではシェアがあり、車業界の中でもそれなりの立ち位置を築いています。
今後、自動運転の車が登場したとして、自社で車を生産する体制があるかないかはシェア争いをする際に大きなポイントとなるでしょう。
もちろん、車メーカーが全て自動運転の仕組みを作れるわけではないので、Waymoはそういったソフトウエアが苦手な企業とタッグを組んで市場を取っていくのだろうと思います。
ロボタクシーの抱える課題
ハンドルやブレーキなど運転制御装置がない車が許可されない
米国では、ハンドルやブレーキなどの運転制御を行う装置が「ない」自動運転カーを公道で走らせる場合、「米運輸省道路交通安全局(NHTSA)」の許可を得る必要があります。
ここは、実は鬼門で、Amazonがすすめる「Zoox」やGMが進める「Cruise」、前述した「Waymo」も、ハンドルのない箱型のバンのような自動運転カーの許可を取ろうとして失敗している。ちなみに、GMは2年以上申請に対して許可が降りず、今年の7月に断念しています。
運転席がないことで、急なトラブルに巻き込まれた時に人が操縦できない状態を許容できないのかもしれません。
また、アメリカの場合、州単位で公道を走って良いかどうかの許可基準が異なります。Waymoは運転装置のある自動運転カーの走行を、カリフォルニア州では許可されていて、すでにサービスを行っているのですが、全ての州が許可を出すかどうかはまた別の問題だと言えます。
おそらくイーロン・マスク氏は、今回の大統領選で活躍することで、この辺を解決したいと考えているのかもしれませんが、アメリカの場合、大統領の権限と州知事の権限は別物なので、そう簡単に話がまとまるかは今後の議論によるものだと思います。
車の台数が圧倒的に足りない
ところで、NHTSAは、通常毎年2,500万台もの車を許可してきているのですが、テスラは直近の四半期で46万台程度、年間だと180万台に届くかどうかというくらいで、かなり少ない状況です。
ちなみに、トヨタは全世界で1,000万台は生産しているので、この差が大きいことがわかるでしょう。
日本でタクシーに乗っていると、トヨタの車であることが多いのですが、あれがすべてテスラに切り替わるという予測は現状立てづらいところです。
実際、あるエリアにタクシーの配車サービスがあったとして、それなりの台数が走っていなければ、乗りたい時に乗れないとなるはずです。
現在、東京都では約40,000台のタクシーが走っていると言われていますが、アメリカ全土、もしくは、全世界をフォローしようとすると圧倒的に台数が足りないことがわかります。
FSD(フルセルフドライビング)の機能では、完全無人運転はできない
前述しましたが、既存のテスラ車に搭載されているFSDのシステムは、運転席に人がいる前提で作られているため、ロボタクシーやサイバーキャブといった完全自動運転には対応していないと言う課題があります。
そもそも、FSDとは、「運転手が十分に注意を払っている状態で、問題があると感じた時人が介入できる、部分的な自動運転システム」とされている。決してオートパイロットと呼ばれる完全自動運転とは違うものです。
多くの人が、テスラのFSDを「自動運転」だと思っているかもしれませんが、実際は違うし、事故が起きた時たとえば飲酒運転をしていたとなると罰せられるのです。
そのため、テスラはこのレベルの自動運転を、Waymoより信頼性と安全性が高い状態で実現する必要があることも問題になります。
テスラはサイバーキャブ事業で、本当に儲かるのか?
ここまで読んでいただくと、いかにロボタクシー実現への道のりが遠いかがお分かりいただけたのではないでしょうか。
個人的には、イーロン・マスク氏には期待しかないし、自動運転カーの街を走る世界を楽しみたいところですが、なかなか壁は高そうです。
でも、もし、FSDではなく、オートパイロットの機能が実現され、NHTSAの許可がおり、たとえばカリフォルニア州の事業許可が降りたとした場合、テスラはどんなビジネスモデルを考えているのでしょう。
まず、イーロン・マスク氏によると「UberとAiribnbの間」だそうです。
Airbnbは自分の家にいない時だけ、宿として貸し出すサービスだが、ロボタクシーも同じく、車を所有している所有者が車を使わない時だけ、勝手に走って、勝手に稼いでくれる。
利用の方法としては、Uberのように、自分の位置を示すと周辺のロボタクシーが気付き、ピックアップして目的地に運んでくれる。
これまでは、車を買うのに数百万円していたのだけど、ロボタクシーとして登録しておけば、毎年いくらかロボタクシーが稼いでくれる。
しかも、普段自分が使いたい時は、オートパイロット機能でいきたいところに運んでくれる。
こういう世界観をイメージしているのです。
確かに便利そうだし、お得に車を所有できそうですよね。
資金が潤沢にある人であれば、何台もロボタクシーを買って、24時間走らせておけば勝手に投資額を回収してくれる、といったスキームも生まれてきそうです。
今度こそ、タクシー業界がなくなる?
一方で、この手の話につきものなのが、既存業界がなくなるという話です。
Uberが登場した時も同じ議論が出たのですが、タクシードライバーはUberドライバーをやった方が稼げると思うと、タクシー会社をやめてUberドライバーになる人もたくさんいました。
しかし、サイバーキャブの場合は、人が全く関与しないので、これが広がることでタクシー業界は壊滅的になるでしょう。
台数が少ないうちは、それほど問題にならないことですが、台数が増えてくるにつれ、この問題は大きな社会問題になってしまい、オートパイロットの機能を備えた車の普及に歯止めがかかる可能性もあります。